NEWS
特集 2022.08.17
戸上隼輔の飛躍

2022年天皇杯・皇后杯全日本卓球選手権大会(一般・ジュニアの部) 男子シングルス優勝


ITTF Magazine 2022年7月号より(年4回刊)

ITTF Magazine 2022年7月号(46~47ページより抜粋)

NSDF2019世界ジュニア選手権コラート大会において、戸上隼輔はプレーの水準だけでなく、その立ち居振る舞いも素晴らしいものであった。彼はスウェースリングクラブ賞を受賞し、その引用文にはこう書かれている。「良い手本を示し、スポーツの最善の利益を維持したため」と記されている。

戸上は大勢の中でひときわ目立っていた。男子団体と男子シングルス両方で銅メダルを獲得し、コラート市を後にした。彼は10代の有望株ではあるが果たして次のステップに進めるだろうか、シニアレベルでこれまで以上の活躍ができるだろうか。

新型コロナ感染症(COVID-19)によるパンデミックによって国際卓球大会は2020年4月より中断を余儀なくされたが、2021年に再び開催されたとき、その答えは肯定的で明確なものであった。
10月上旬、WTTスターコンテンダー・ドーハに続き、ITTF-ATTUアジア卓球選手権ドーハ大会でも成功を収め、多くのメダルを携えて帰国した。
その後、11月にヒューストンで開催された世界卓球選手権(個人戦)で表彰台の一角に名を連ね、さらに4カ月後の2022年3月、WTTシンガポール・スマッシュで表彰台に上った。
その間に、日本人にとって最も栄誉ある大会「天皇杯・皇后杯2022年全日本卓球選手権大会(一般・ジュニアの部)の男子シングルスで優勝した。
これは驚くべきことだろうか?そのようなことは全くなく、これまでも多くの兆しが見え始めていた。

絶望的な試合、選手によって降参したくなる者もいれば、毅然とした態度で勝利への目的意識を持つ者もいる、戸上はまさに後者であった。
男子団体戦の準決勝で戸上は中国の徐瑛彬と向鵬にフルゲームで敗れた。
その後、男子シングルス2回戦で徐瑛彬選手と対戦し勝利を収め、準決勝では優勝した向鵬に1-4で敗れたが、どのゲームも2点差という僅差であった。
「中国チームとの対戦では、2試合とも負けたくないという思いがあり、向鵬選手との3、4ゲーム目は挽回して、押し切れると思っていました」、「試合終了時には、会場から逃げ出したいと思うほどでした」と戸上は振り返る。

収穫

敗れはしたものの間違いなく収穫はあった。中国がその基準を示している。
徐瑛彬と向鵬は、彼が逆転負けを経験した唯一の対戦相手だった。
また、同世代のトッププレーヤーと互角に戦えることを証明した。
「向鵬選手との試合は、1ポイント1ポイントが長くて大変でした。向鵬選手のプレースタイルは僕と同じで、ラリーがうまいんです。彼は決してミスをしない。常にプレッシャーにさらされ、そのような状況で安定したプレーをするのは難しいことです。」と振り返った。

戸上が向鵬と対戦する次の機会に期待したい、なぜなら、戸上の心の中には確かな自信が芽生えているからだ。
「2019年の自分と比較すると、確実にレベルアップしている」と戸上は強調する。
「特にフィジカルが良くなり、自信を持ってプレーできるようになりました。トップランクの選手相手でも、カウンターアタックで勝てるようになったんです。」

(21年秋の)ドーハで行われたWTTスターコンテンダーとITTF-ATTUアジア選手権大会は、わずか2日間のインターバルを経て開催された厳しい大会であったが、フィジカルが特に良くなっていたという発言は間違いではなかった。
「アジア選手権大会の途中から足がつってしまい、体から危険信号が出ていました」と戸上隼輔は振り返る。
「プレーの質が下がるかもしれないところでしたが、その日は試合がなかったので、幸いすぐに回復し問題ありませんでした。仮にまだ試合があったとしても、正直なところ、まだプレーできたかもしれません」 と振り返った。
また、ドーハでの左利きの選手と組んだときの彼の実力は明らかで、日本代表の選考の際に重要なポイントになるだろう。

宇田幸矢との男子ダブルス、早田ひなとの混合ダブルスなど、今後10年で最も戦力になりそうな戸上ペアの誕生を我々は目撃したのではないだろうか?
早田ひなのパートナーは張本智和が最有力かもしれないが、戸上はその代役として十分すぎるほどふさわしい。
混合ダブルスは2回とも優勝し、男子ダブルスは銅メダルと金メダルを獲得した。
「男子ダブルスは優勝することだけが目標でした。宇田選手のチキータやフォアハンドは、トップランカーと比較しても非常に強力だと思います」とアジア選手権を振り返った戸上。
「彼との信頼関係があったからこそ、優勝できたのだと思います」。
混合ダブルスでも上位入賞候補とされていたが、戸上にとってはプレッシャーであった。
「ヒナには3種目を制覇できるポテンシャルがあると信じていました。彼女は試合を楽しんでいるように見えるのに対し、僕は彼女をがっかりさせないよう全力を尽くしたつもりです」。
結果、戸上は完璧なプレーを見せ、早田ひなは無敗で大会を終え3つのタイトルを獲得した(早田は女子ダブルスには出場していない)。

 

すべての種目で

アジア選手権では、早田が表彰台に3度上がり、戸上がそれを1回上回った。
男子団体と男子シングルスの準決勝に進出し、団体戦はチャイニーズタイペイ、男子シングルスは李尚洙が優勝した。李尚洙には敗れたが、最も注目すべきは、開幕戦でイエメンのイブラヒム・グブランを下した後、第2シードの香港の黄鎮廷を破ったことである。
「黃鎮廷選手は初戦で、僕はシングルス1回戦でとてもいいプレーができていたので自信がありました。混合ダブルスで黄鎮廷・杜凱琹組に勝っていたこともあって、僕のことを警戒していたように思います」と戸上は説明する。
「ペンホルダーの場合、返球が少し違うので、あまり考えずに強く打ち返そうと自分に言い聞かせていました。また、ベンチコーチとして田勢監督がいて、アドバイスがとてもわかりやすく、自信を持ってプレーすることができました」。
黄鎮廷を相手にストレート勝ちしたのが、戸上のピークパフォーマンスだったのだろうか。
「実は、4回戦の馮翊新戦が、僕のベストパフォーマンスだったと思うんです。何度か対戦し、負けたことはないのですが、その前の試合で彼は趙勝敏に勝っていたんです」と戸上は強調する。
「団体戦でも篠塚選手に勝っていて、以前対戦したときとは別人だと思いました」と、戸上は力説した。
戸上はドーハで好成績を収め、翌月のヒューストンの世界選手権でも同じように勝ち進み、男子シングルス3回戦で中国の王楚欽に敗れたが、3回戦敗退は納得のいくものだった。
「王楚欽選手と自分の大きな違いは、基本的な技術にあると感じました。ラリーではそれなりに戦えたと思いますが、サービス、レシーブ、台上の技術では彼の方が上でした」と戸上は説明する。「王楚欽選手と試合する機会があったことは、次のステップにつながる経験でした」。
男子ダブルスでは複雑な心境になりながらも準決勝まで進み、銅メダル獲得となった。しかし、前月のアジア選手権決勝で破った張禹珍・林鐘勲組に敗れたことは、非常に悔しかった。
「ドローを見たときは、プレッシャーを感じるというより自信を持った感じでしたが、試合に勝つにつれてプレッシャーが大きくなっていきました。特に、張本・森薗ペアに勝って、メダルの可能性が出てきたときです。
準々決勝のドリンコール・ピッチフォード組戦は不安でいっぱいでした」と戸上は振り返る。
「張禹珍・林鐘勲の戦術は、アジア選手権とはまったく違っていました。
アジア選手権では宇田選手のチキータが非常に効果的でしたが、今回は林鐘勲がロングサービスを使ってきたことによりチキータで返すことができず、それに対し調整しきれませんでした」。
ともあれ、戸上はこの4カ月間を振り返って誇れる内容だったと思えるが、最も誇れるのは新年が明けた後のことであった。
全日本選手権で、宇田とペアを組み、男子ダブルスで優勝し、更に男子シングルでも優勝したのだ。
「ダブルスかシングルスのどちらかで勝てるチャンスがあると思っていました」と戸上。
「最後の2日間は、会場に観客がいる中での試合だったので、その人たちに自分の成長を見てもらいたかったんです」。戸上は、間違いなく増え続ける彼のファンを喜ばせた。
男子シングルスの後半では、丹羽孝希をストレートで下し、松平健太を6ゲームで下して、天皇杯の優勝者として名を刻んだのである。
戸上は、「心身のコンディションがよく、丹羽さんよりも速いスピードでプレーできたのがよかった」と振り返る。
「松平選手との対戦では、何度もリズムを変えられて苦戦しましたが、最後は何とか調整することができましたし、全体的にはうまくサービスバリエーションを変えて戦えたと思います」。
3月に行われたシンガポール・スマッシュで、さらにメダルを獲得した。
男子シングルスは予定通りにはいかず、スロベニアのダルコ・ヨルギッチに初戦でわずかな差で敗れたが、宇田との男子ダブルスでは、最後の難関、樊振東・王楚欽組に敗れたが銀メダルを獲得した。
「正直、シンガポールでは自分でいいプレーができたと思える試合が1つもありませんでした。勝った試合もすごく苦労した試合でした」と、戸上はため息をついた。
やや不満げな表情だが、シンガポールスマッシュに出場した選手の圧倒的多数は、同じような結果でも大喜びしたことだろう。
もしかしたら彼はベストの状態ではなかったのかもしれないが、このような大きな大会に出場し結果を残すことができたのなら、それは強い選手であることの証明である。
「ポジティブに考えることは重要です。私は苦しい状況下でも勝てる強さを手に入れました。それが自信となり、さらなる成長につながっています」と戸上は言う。
「アジア選手権や 世界選手権でメダルを獲得しましたが、今の水準に満足することなく、さらに上を 目指していきたいと思っています」。
そして同年5月、アメリカで開催されたWTTフィーダー2大会(フリーモントおよびウェストチェスター)では、これまで通り宇田と組んで男子ダブルスで優勝、さらにウェストチェスター大会で男子シングルス準決勝に進出した。
もし、5年後あるいはさらにその先の未来に戸上の足跡を振り返ったとき、2021年9月から2022年3月までの半年間が最も象徴的だったということになるのだろうか。
獲得した10個のメダルのうち、5個が金メダルであった。

2021年9月から2022年3月までの間に獲得したメダル
2021WTTスターコンテンダー、ドーハ
・男子ダブルス(宇田幸矢):3位
・混合ダブルス(早田ひな):優勝

2021ITTF-ATTUアジア選手権ドーハ大会
・男子団体(木造勇人、篠塚大登):3位
・男子シングルス:3位
・男子ダブルス(宇田幸矢):優勝
・混合ダブルス(早田ひな):優勝

2021世界卓球選手権ヒューストン大会
・男子ダブルス(宇田幸矢):3位

2022天皇杯・皇后杯 全日本卓球選手権大会(一般・ジュニアの部)
・男子シングルス:優勝
・男子ダブルス:優勝

2022WTTシンガポールスマッシュ
・男子ダブルス:2位

 

2021WTTスターコンテンダー、ドーハ
混合ダブルス優勝
(左から)戸上隼輔/早田ひな
2021ITTF-ATTUアジア選手権ドーハ大会
男子ダブルス 優勝
(左から)戸上隼輔・宇田幸矢