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医・科学委員会コラム:成長期の傷害予防


2020年1月から2021年3月頃までの予定でスタートした「卓球:医科学コラム」ですが、いよいよ最終回となります。今回は、スポーツ医・科学委員会副委員長であり強化部副部長の小笠博義氏が、整形外科医の視点から成長期の傷害予防についてまとめました。

(日本卓球協会スポーツ医・科学委員会委員長 吉田和人)


第15回 「成長期の傷害予防」

日本卓球協会スポーツ医・科学委員会副委員長
小笠博義(萩市民病院)
(前所属:山口大学大学院医学系研究科)

国内では選手の成長とともに指導者が変わっていくのが一般的です。小学生の指導者はクラブコーチが主体で、短い時間の中で複数の選手を同時に指導しているため、故障に気づきにくい環境にあります。練習中の怪我を見逃すことは少ないと思いますが、故障に気づくためには、指導者側から選手と常にコミュニケーションをとる姿勢が大切でしょう。小さな子どもたちは自らの不具合を訴える手段に乏しく、指導者の手元を離れて数ヵ月、あるいは数年後に初めて故障が発覚することも少なくありません。“肘が完全に伸ばせない”などのちょっとしたチェックで選手の故障に気づける可能性があるので、異常を感じたら、指導者から選手に“どこかおかしくないか”と問いかけてみてください。子どもたちは“違和感”として異常を感じているはずです。

子どもたちには著しく身長が伸びる時期が必ずあり、この時期に身体の柔軟性が低下して故障しやすくなります。指導者は子どもたちの成長スピードを把握することが傷害予防の第一歩になると考えましょう。小中学生には、月1回、身長と体重を計測して記録することをおすすめします。月に1㎝以上も身長が伸びる時期は最も注意を要するため、成長スピードが急激に上昇する時期には定期的に柔軟性をチェックしましょう。傷害予防のために毎日のストレッチングはとても大切なので重視してほしいところです。

さらに、子どもたちの卓球以外の動作をよく観察することも大切です。柔軟性の他にも敏捷性やバランスの良し悪しをチェックして、選手の身体を理解してください。指導者が子ども時代に簡単にできた動作ができない子どもたちが増えています。外遊びの減少や生活習慣の変化が大きな原因と考えられますが、スマホの長時間使用などに伴う姿勢の悪化も要注意です。バランスや敏捷性の能力低下は、中学生以降に大きな動きを伴う練習をするようになると怪我や故障につながりやすいです。

子どもたちに多い足周囲の傷害はシューズとの関連が大きいです。扁平足や外反母趾など、足の形が悪い小学生選手が驚くほど増加しています。足の痛みの原因や、安定性が崩れて動きにくい足になり、競技成績に直結する深刻な問題だと考えています。指導者は選手の足の形を知り、シューズの選択や履き方の指導を重要視して下さい。

成長期の身体は壊れやすいものです。選手の異常を察知したら、早期に医療機関を受診して正しく診断してもらいましょう。

最後に、過去の調査(小笠、2009・2010)から分析した小学生の怪我と故障のポイントを箇条書きにしておきます。
(1)怪我や故障の多くは足部や足関節、膝関節におこります。
(2)傷害発生率は怪我、故障ともに15%程度と考えられます。
(3)病院受診率は怪我が30%、故障は25~30%程度と低いです。


文献
小笠博義、森 照明(2009)全日本選手権出場小学生選手の傷害調査.(財)日本卓球協会スポーツ医・科学委員会,平成21年度研究報告:26-29.
小笠博義、森 照明(2009)成長期卓球選手の傷害調査(第2報).(財)日本卓球協会スポーツ医・科学委員会,平成22年度研究報告:3-7.