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日本代表 2021.11.27
【特別連載】女子日本代表・馬場美香 元監督インタビュー 一丸となって戦った東京五輪と「打倒中国」に必要な強化

2020 ITTFワールドツアープラチナ・ドイツオープンの様子【ITTF】


2016年10月の就任以来、女子ナショナルチームの強化に尽力してきた馬場美香監督が2021年9月末日の任期満了をもって勇退した。

東京オリンピックでは女子団体銀メダル、女子シングルスでも伊藤美誠(スターツ)が銅メダル、混合ダブルスでは伊藤と水谷隼(木下グループ)のペアが中国を破り金メダルに輝いた。次期監督にはこの5年間、苦楽を共にしてきたヘッドコーチの渡辺武弘氏が就任。大役を終えて振り返る“馬場ジャパン”の強化と「打倒中国」を掲げる日本の女子卓球の課題を聞いた。

東京オリンピックに懸けた5年間

―東京オリンピック後はどうお過ごしですか?
ほっとした気持ちで、毎日穏やかに過ごしています。ただ、ずっと一緒だった女子ナショナルチームのスタッフたちに会えなくなったのは寂しいですね。コーチや専門家、事務方の皆さんに支えられ、ご指導いただきながら東京オリンピックを終えることができたことに感謝の気持ちでいっぱいです。皆さんに監督退任の挨拶に回ったときには涙が出てきました。

―2016年リオデジャネイロオリンピック後に監督に就任されて東京オリンピックまでの5年間、どんなチームづくりをしてこられましたか?

選手たちが一丸となって東京オリンピックを迎えられるよう、個々の力を強くし、チーム力を上げていくイメージで、日本卓球協会の力や各専門分野の方々の知識をお借りし、「打倒中国」を目指してやってきました。特に日本で開催されるオリンピックは特別ですし、監督になる以前の私は(福原愛選手の)専属コーチの経験しかなかったので、本当にたくさんの皆さんに助けていただきました。

―選手には「母体」と呼ばれる練習拠点がありますが、ナショナルチームの監督として各母体とどう連携されたのでしょう?

各選手には専任コーチがいて、ナショナルチーム監督の私が全てを指導するわけではありません。合宿や大会のときにコーチや選手と、どこを強化すればもっと強くなるかを話し合い課題を共有しました。そして選手の課題感と私の考えが一緒であれば、そのままいこう。逆に選手が自分はこう考えていると言えば、そこも課題に入れていこうという感じで強化を進めました。

―お話はどのタイミングでされるのでしょう?

基本的に試合が終わってすぐです。ただし、選手の状態によっては少し時間を置いた方がいい場合もありますので、時には、会場から宿泊先に帰るバスの中や帰国する飛行機の中で話しました。私は選手に反省してほしいとは思っていなくて、課題にしていた技術や戦術を試合で上手く使えなかったとか、使ったけど通用しなかったというときに、どうすれば次の試合で上手くいくかという「次の課題」を話したいんですね。だから選手が試合に負けて感情的になっているときは冷静になるまで待ちました。

選手と専属コーチと会話しながら進めた強化

―史上最強といわれるメンバーで臨んだ東京オリンピックでしたが、そこまでの道のりは平坦ではなかったと思います。エースとして3個のメダルを手にした伊藤選手も良い時期もあれば苦しい時期もありましたが、ナショナルチームの監督としてどう導いてこられたのでしょう?

伊藤選手はリオオリンピックが終わって一段落したこともあり、2016年後半から2017年前半にかけて少し立ち止まっていました。技術面の他に私からは「こういう気持ちの持ち方をしてほしい」ということを伝え、本人が試合でそれをやってみて、「一生懸命やるようにしています。だけど、まだ上手くいかないんです」と口にしていたのが印象に残っています。もちろん専属の松﨑太佑コーチとも話をして、本人の考えを聞き、大会が終わった後や合宿の時に次の課題の話をするという繰り返しで進んできました。

―平野美宇選手(日本生命)も東京オリンピック本番では目の覚めるようなプレーでチームの銀メダル獲得に貢献しましたね。

彼女の場合は2016年後半から2017年まで急激な成長を遂げました。が、その後、さまざまな心理状態があって試合で勝てない時もありました。それをずっと見ていましたので、どういうサポートが必要かは分かっていて、彼女が東京オリンピックの団体メンバーに決まったときから本人と専属の張成コーチ、私の3人で話し合い、「あなたが抱える不安要素を払拭しましょう」と平野選手に伝え、若い張コーチともコーチングについて話しました。その結果、平野選手は2017年に優勝したアジア選手権や銅メダルを取った世界選手権とはまた別次元の強さが出てきました。

―平野選手は大舞台に強いイメージがあります。

おっしゃる通りで、彼女は世界選手権のような大きな大会で自分の力を発揮します。それに爆発力を持っています。だからオリンピックでもそれを信じてベストな状態にさせる。そのために出来ることは全てやるという考えで強化をしました。(伊藤選手と石川選手はオリンピックを経験しているので実力は出せるだろうと考えていて)団体戦の結果は初出場の平野選手の出来次第だとずっと思っていましたからね。

「打倒中国」に必要なブロック技術と精度の強化

―石川佳純選手(全農)はチームのキャプテンとして頼もしい存在でしたね。

彼女は経験が豊富なので、大会本番に向けた調整が非常に上手いですね。ただ東京オリンピックの団体戦では1番のダブルスが重要でしたから、ダブルス練習は必ず私も見ていて、二人にはデータをもとに「こういう所にもっと注意して強化していこう」という話をすごく濃密にしてきました。そうした中で平野選手は石川選手とペアを組むようになってダブルスに自信をつけたということがありますし、石川選手も平野選手とのペアならいけるんじゃないかという気持ちになったと思います。

―「打倒中国」を掲げる日本ですが、オリンピックや世界選手権の団体戦で中国を倒し金メダルを獲得するには何が必要でしょう?

一つは「ブロック技術の強化」だと私自身は考えています。日本の選手は中国以外の国(協会)の選手と対戦するときは攻めきってポイントを取ることができますが、中国の選手に対して全ては攻めきれません。攻めたとしても相手は非常に高度なブロックやカウンターを返してくるからです。日本ももう少しブロック技術が高くなれば中国に対抗できると思います。もう一つは「技術の精度の向上」です。日本の選手も優れている技術は多くありますが、中国の選手は特に、自分が持っている技術をどの場面でどう使うかや相手が何を嫌がっているかを瞬時に判断する能力が高いと感じました。非常に高度な話なんですが、例えばサイドを切るボールもあと5cm厳しければ相手は苦しくなりますので、今後はより高いレベルでの強化が必要だと思います。

―後任をヘッドコーチの渡辺武弘さんに託しました。渡辺新監督にはどんなことを期待されますか?

私が監督を引き受けた5年前、渡辺さんにナショナルチームのヘッドコーチを依頼したいと日本卓球協会にお願いしました。それほど渡辺さんを信頼していました。選手時代を一緒に過ごした期間があり、引退後も仕事でご一緒する機会があったりして、渡辺さんの人間性を知っていたからです。私のこともよく理解してくれて、監督ならではの悩みや困ったことなどをいろいろ聞いてもらいました。東京オリンピックまで監督を続けてこられたのも渡辺さんのサポートが大きかったからと言えます。渡辺さんは人をまとめるのがとてもお上手ですし、女子ナショナルチームの状況をよく理解されていますので、選手やコーチと上手く連携しチームをマネジメントしていかれると思います。

(インタビュー/文=高樹ミナ)

 

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