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日本代表 2021.11.26
【特別連載】男子日本代表・倉嶋洋介 前監督インタビュー 世界一へのカギは「決定力」強化と「指導者」育成

2019ITTFワールドツアー・香港オープンの様子【ITTF】


2012年ロンドンオリンピック後から男子ナショナルチームを率いてきた倉嶋洋介監督が2021年9月末日の任期満了に伴い勇退した。

東京オリンピック男子団体で銅メダルを獲得。混合ダブルスでは水谷隼(木下グループ)/伊藤美誠(スターツ)ペアが中国を破り悲願の金メダルに輝いた。オリンピックで君が代を聞くのが夢だったという指揮官は大仕事を終え何を思うのか。田㔟邦史新監督が引き継いだ“倉嶋ジャパン”の功績と日本が世界一になるための課題を聞いた。

 

金メダル獲得の瞬間は全身の力が入らなかった

―コーチ期間を含めると13年近く男子ナショナルチームの強化をしてこられました。慣れ親しんだ現場を離れた心境はいかがですか?

監督になったのは2012年12月ですが、コーチだった期間を含めると長いですよね。監督を辞めてからまだ間もないんですけど、もっと経ったような気がします。ナショナルチームにいるときは海外遠征や合宿で家に帰れないのが普通でした。でも今は必ず家に帰れるので、こんな平穏な生活リズムでいいのかなとちょっと不思議な感覚です。

―今度はTリーグに参戦している木下グループの総監督として選手の強化・育成をされていますね。

ナショナルチーム全体を見る立場から母体の選手を見る立場になって、ナショナルチームよりも選手の人数が少ないぶん、一人一人により深く接することができています。シニアの選手強化はもちろん、2021年4月に開校した「木下卓球アカデミー」のジュニア世代の育成もあるので、将来的にTリーガーや2032年のブリスベンオリンピックに代表選手を輩出したいという目標を持っています。

―東京オリンピックで聞くのが夢だったとおっしゃる「君が代」が東京体育館に流れました。あの瞬間を思い出すことはありますか?

金メダルに最も可能性があると思っていたのは水谷と伊藤の混合ダブルスペアでした。あの大舞台で中国に勝つというのは並大抵ではなくて、僕らがずっと掲げてきた打倒中国を果たし日本の国旗が一番高い所に上がったときは、それまでの苦しかったことや中国に勝てなかった悔しい思いが一気に湧き出しました。勝利した瞬間は「やったー!」ってガッツポーズで立ち上がったんですけど、すぐに全身の力が抜けちゃって、僕だけ座り込んだままでしたね。今、思い出しても何とも言いようのない感情だったなと思います。

―メダルに全てを懸けた原動力は何だったのでしょう?

ロンドンオリンピックから帰国し、成田空港で開かれた記者会見です。あれが悔しさの原点というか、ずっと脳に絵として残っています。あのとき女子団体は日本のオリンピック史上初の銀メダルを取って、メディアも大騒ぎで。一方、僕ら男子団体は準々決勝で負けて。僕も女子のメダルは嬉しかったんですけど、男子の記者会見はお通夜のような雰囲気で、悲しいというか惨めというか……。勝つと負けるとでは天と地の差だなと改めて思いました。そこで「次は絶対やってやるぞ」と誓い4年後のリオオリンピックに乗り込んで、男子団体銀メダルにつながりました。リオ大会後の盛大な記者会見で僕と水谷、丹羽が目を合わせて「ロンドン後の記者会見覚えてる?」と話しましたが、言葉に出さなくてもお互い何が言いたいのか、すぐに分かりました。

 

怪物・張本智和との運命的な出会い

―男子日本のエース張本智和(木下グループ)選手の成長と監督の時期が重なったことをどう受け止めていますか?

彼が小学2年生のとき全日本選手権大会(ホープス・カブ・バンビの部)の大会で初めて見て「すごいのがいるな」と注目し始めました。小学5年生からはシニアの大会にちょっとずつチャレンジさせて経験を積ませ、中学1年生のとき2016年世界ジュニア選手権で最年少優勝を果たしました。この優勝があったから翌年の世界選手権デュッセルドルフ大会の日本代表に選べたんです。そこが結構ターニングポイントでしたね。もしあそこで代表に選べていなかったら、東京オリンピックに間に合っていなかったかもしれません。

―世界選手権という大舞台での経験が東京オリンピックに繋がったのですね。

選手の成長には自分が置かれたステージやそこで感じる雰囲気がとても大事なんです。張本選手は当時まだ中学2年生で多くを吸収する力がものすごく強かったですしね。あのタイミングで世界選手権の代表になっていなかったら、練習も違うモチベーションでやっていたと思います。技術的なことよりも経験そのものが彼を飛躍させたし、シングルスで水谷選手に勝ってベスト8まで行ったとき、ほぼ確信しました。「東京オリンピック、これは間に合うな」って。

―東京オリンピックの男子代表は張本選手、丹羽孝希(スヴェンソンホールディングス)選手、水谷選手という個性的な面々が集まりました。チームをまとめる難しさや面白さはどんなところにあったでしょう?

3人は10〜30代と世代が違いますし、周りから「チームをまとめるの大変でしょ」というようなことを言われましたけど、難しさはありながら、それが楽しいというか。結局選手って、個性が強いくらいじゃないと世界のトップで戦うのは厳しいと思うんですよね。強い意志を持っていないとオリンピックのようなステージに上がるのは難しい。だから僕は普段からずっと「自分で考える力が大切だ」と選手たちに言っていますし、プレースタイルも性格も違って当たり前なので3人の個性の強さがストレスになるようなことはありませんでした。

 

「決定力」の向上と「指導者」の育成が課題

―田㔟邦史新監督とは長い間、ともに男子ナショナルチームの強化にまい進してこられましたね。

彼には感謝しかないですね。この先も監督として若い世代の選手たちを見ていくのは魅力的でしたが、世代交代の時期でもあるので、田㔟コーチに監督を引き継ぎました。僕らは協和発酵(現在の協和キリン)で選手だった時代から、ぶつかって言い合いになることがなくて、彼は僕の考えをよく理解しサポート役に徹してくれました。一つだけ申し訳ないのは、このコロナ禍でバトンタッチしたことです。大変な状況でやりたいことがなかなか出来なかったり、スケジュール通り進まなかったりというのがあると思うからです。ただ、これまでの男子ナショナルチームの流れを肌で感じ受け継いでくれているので、さらに良いチームづくりをしてくれるはずです。

―「打倒中国」もさることながら、男子はヨーロッパ勢や韓国といったライバルに勝っていかなければなりません。日本が世界一になるための課題は何だとお考えでしょう?

二つあります。まず選手のことで言えば、この10年ぐらいで世界の男子選手のバックハンド技術が進化し、オールラウンドプレーヤーに近づいてきています。その中で日本の選手たちはピッチの速い卓球を追求し勝っていますが、プラスして今後は「決定力」を上げていくことが課題だと考えます。速い卓球を目指そうとすると、どうしても台について前でプレーすることになるので、フォームが小さくなったり振り切れなくなったりして、ボールに十分なパワーが出ません。そこを速い卓球で強いボール、決定力のあるボールを打てるようになり、サーブやレシーブなどで日本人の器用さを生かして相手を崩していくことができれば、打倒中国が見えてきます。

―もう一つの課題もお聞かせ下さい。
指導者の育成です。今、全国各地に卓球場がたくさんあって、ものすごく情熱を持っているコーチがいます。そういう方たちがもっと指導について勉強できたり経験を積めたりするシステムがあるといいなと思うんです。そうなれば「選手」「指導者」「環境」といった強化の3本柱が揃って、Tリーガーなどのトップ選手を指導できるレベルの指導者が増え、日本も組織的に強くなり、組織力で群を抜く中国を倒す一番手の存在になってくると思います。

(インタビュー・文=高樹ミナ)

 

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